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中国への特許出願について

中国出願の際、パリルートとPCTルートどちらを活用するのがより有効なのかについてご説明します。

中国には、特実同日制度といった中国独自の制度の存在や、近年専利法(中国の特許法)が大改正されたことから、特許出願がかなり複雑になっております。

また、中国では、実用新案権制度・商標権・意匠権の出願も多くされておりますので、日本の制度とどのように異なっているのか、またその取得方法についても一緒にご説明します。
このページの内容をまとめたPDFファイルもこちらで配布しておりますので、是非ご活用ください。

1.中国出願の必要性

日本で特許を取得した商品が国内でヒットし、より人口が多く市場規模が大きい中国に進出するケースは多いです。このとき中国特許庁から特許を取得せずに中国の現地工場で委託生産をし、中国での販売を開始したとすると、以下のようなリスクがあります。

リスク①

現地工場がさらに安いコストで同じ商品を生産販売して、利益を略奪される。この場合、対抗手段はありません。日本で取得した特許は日本国内のみの適用(属地主義)になるため、特許は必要な国で各々取得する必要があります。自分のビジネスを守るために特許が必要です。

リスク②

中国ですでに、腕時計Aと類似した商品が特許を取得し、販売開始している。

この場合は相手の特許権を侵害してしまうため、販売差し止め請求又は損害賠償を請求されることがあります。国外進出しても特許がないと損をすることになります。他人の権利を侵害しないためには特許が必要です。

中国は世界一の人口を誇る世界最大のマーケットであり、特許出願数も世界一位です。世界の特許出願の約半数が中国出願と言われています。

2.国際特許出願の手続き

海外で特許を取得する方法は二つあります。

(1)パリルート出願
個別出願であり、現地代理人と直接やり取りします。少数国で特許を取得する場合に有効です。

(2)PCTルート出願
一度の国際出願(=PCT出願)で、全PCT加盟国に出願したことと同一の意味を持ちます。多数国で特許取得の場合に有効です。国際出願の方法について、詳しくはこちらのページをご覧ください。

3.中国特許について

中国出願の注意点、出願方法を決めるポイントには以下のようなものがあります。

(1)特許を申請する国の数
PCT出願はそれ自体が高額なため、三か国以内の少数国に出願する場合は個別出願であるパリルート出願のほうが安価です。 一方でPCT出願には
・簡便に多数国の出願日を確保できる
・各国への移行判断を、原則30か月まで猶予可能
・特許性判断のための調査結果を得ることができる
といったメリットがあります。

(2)特実同日出願を考えているか
特実とは、特許と実用新案を指します。これは中国独自の制度であるため、個別出願でのみ可能となります。同一の出願人が同一の出願日に同一の発明創作技術について出願することが条件で、特許と実用新案の出願時の明細書にそれぞれの出願をしていることを明記する必要があります。
特実同日出願の場合、実用新案が先に権利化したあと特許出願が実体審査を通過し、実用新案を放棄することで特許が権利化します。万が一特許出願が拒絶されても実用新案が権利化するため、権利の空白期間が短いというメリットがあります。
中国の実用新案権は日本の実用新案権とは少し異なり、世界でも利用価値が高いとされています。
詳しくは4.中国実用新案についてで説明いたします。

(3)誤訳訂正
中国出願の出願書類は全て中国語であり、翻訳ミスによる申請不受理が日本企業間で問題視されています。パリルート出願では直接出願なので誤訳があっても訂正できず、出願取り下げとなってしまいます。一方PCTルート出願では、国内移行時に誤訳訂正が可能なので安心です。

(4)出願期限
パリルート出願の出願期限は優先日から1年。
PCTルート出願の出願期限は優先日から30ヶ月(延長費用納付で2ヶ月延長可) と定められています。

※優先日とは?
特許は属地主義であり、中国の特許は中国特許庁から取得する必要がありますが、日本での特許出願と中国での特許出願にタイムラグが生じます。この間に他社が出願してしまうのを防ぐために優先権制度があります。国内出願から一定期間内に他国へ出願すれば、新規性・進歩性等の判断に関し、国内出願の日を基準とすることができます。

4.中国実用新案について

中国の実用新案権は日本の実用新案権とは少し異なります。中国の実用新案権は世界でも利用価値が高いとされ、特許よりも多く出願されています。日本の実用新案権については詳しくはこちらのページをご覧ください。

【日本との共通点】

・特許より安価に取得できる
・実体審査がないため、早急に権利化できる。
・製品のみが保護対象(方法の発明は保護対象外)
・権利の保護期間は10年(特許は20年)

【日本との相違点】

・権利行使する際、技術評価書が不要→権利行使しやすい
・特許より容易な進歩性で登録されることを許容
・実用新案を無効にすることが難しい
・特許とほぼ同じ賠償金を請求できる

このような活用のしやすさから中国の実用新案の件数は非常に多く、重視しないといつのまにか侵害してしまうことも考えられます。中国進出する際、実用新案を日本と同じように考えて無関心でいると損をする可能性があります。

中国における実用新案

中国実用新案権の出願方法には
・特実同日出願
・パリルート出願
・PCTルート出願
の三つがあります。

パリルート出願、PCTルート出願については特許出願とほぼ同じとなります。
特実同日出願については3.中国特許についてをご覧ください。

中国実用新案権出願時の注意点

審査請求について
審査請求について日本と異なる点があります。特に審査請求期限の起算日が日本では出願日であるのに対し、中国では優先日となることに注意する必要があります。出願公開も優先日から18ヶ月です。

  日本 中国
出願人 何人も可 出願人のみ
審査請求期限起算日 出願日 出願日もしくは優先日のどちらか早い方
審査請求期限 3年 3年

優先権の主張について
出願と同時に優先権主張を行い、出願から3ヶ月以内に優先権証明書を提出する必要があります。日本出願を基礎出願とする場合は、特許庁間DASを利用することができます。

早期審査制度について
早期公開請求、優先審査制度、PPH制度などの早期審査制度があります。早期公開請求では方式審査に合格後、直ちに出願公開となります。PPH制度とは、第1庁で特許可能と判断された発明を有する出願において、出願人の申請により、第2庁において簡易な手続きで早期審査が受けられる制度です。
早期公開請求とPPH制度を併用すれば7~9ヶ月で特許を取得することができます。(通常、16~18ヶ月)

5.中国での商標出願について

商標出願から登録までの流れ

海外で商標を取得する方法は二つあります。

(1)各国別出願
個別出願であり、現地代理人と直接やり取りします。少数国で商標権を取得する場合に有効です。通常は各国に出願した日が出願日となりますが、日本での出願日から6ヵ月以内に第二国へ同様の商標登録出願をした場合、日本での出願日が適用されます。(パリ条約第四条による優先権制度) 中国における各国別出願の流れは以下のようになっています。

商標出願から登録までの流れ

メリット
①登録証が発行される
後述のマドプロ出願では発行されない登録証が発行されます。多数国では登録証は名誉証のような位置づけですが、中国では商標権を行使する際に裁判所に提示することが義務付けられています。そのためマドプロ出願では3~6ヵ月かけて改めて登録証を発行してもらう必要があり、迅速な権利行使に支障をきたすことがあります。

②セントラルアタックの危険性がなく、権利が安定している
国際登録日から五年以内に基礎出願・基礎登録が無効・取消になった場合、国際登録も取り下げられてしまうことをセントラルアタックと言います。マドプロ出願と異なり各国別出願ではこの危険性がないため、権利が安定していると言えます。

③商標が中国漢字に対応できる
マドプロ出願では日本で出願した商標と同一の商標で商標権を取得する必要があります。商標にひらがな・カタカナが含まれている場合でも登録することはできますが、以下のようなデメリットがあります ・ひらがな・カタカナは中国人にとっては図形であり、認知されづらくなるおそれがある。 ・文字商標ではなく図形商標として登録されるため、呼称と観念が考慮されず、他人の使用を排除できる範囲が狭い。
よって、一般的には中国漢字で商標登録することが好ましいとされます。また、日本と中国では同じ漢字でも意味が全く異なることがあるため、中国商標作成の際には漢字の意味も検討する必要があります。

商標が中国漢字に対応できる

(2)マドプロ出願
一度の国際出願(=マドプロ出願)で、複数国に一括して手続きすることができます。日本で出願した商標と同一商標での出願となります。

【メリット】
①簡便な手続きで複数国へ出願したのと同じ効果を得られる

②複数国出願の場合、個別出願より費用を抑えられる
現地代理人を各国ごとに雇わなくて済み、費用が抑えられます。但し、中国では商標登録と特許の代理人資格が異なります。商標の代理人は資格試験がないため、各国別出願の場合でも、他国に比べると代理人を雇う費用が安価となります。

③一般的に個別出願より結論が早期に出る
マドプロは審査期限が1年(マドリッド協定)もしくは1年半以内(マドリッド議定書)と定められています。

④「指定商品・役務」の記載を柔軟に修正できる 商標とは、商標(マーク)と商品・役務(サービス)の組み合わせで成り立つものであり、「商品・役務」の指定が商標の権利範囲を確定します。直接出願の場合は補正指令が出ない限り指定の変更ができませんが、マドプロ出願の場合は中国商標局が審査を経た後も補正することができます。但し、直接出願でも積極的表記の場合はあとから中国商標局に補正指令を受ける可能性が高いです。

中国商標出願時の注意点

商標の保護範囲について
商標とは商標(マーク)と商品・役務(サービス)の組み合わせで成り立つものです。日本と中国では「指定商品・商品」の表記が同一でも保護範囲が異なることがあります。

商標の保護範囲について

台湾や香港・マカオについて
台湾や香港・マカオについては、別途出願する必要があります。

冒認商標出願について
冒認商標出願とは、悪意のある横取り商標出願のことです。冒認商標を出願されると、海外進出の大きな妨げとなる可能性があります。詳しくはこちらのページをご覧ください。

6.中国での意匠出願について

日本と中国の意匠制度の違い
中国の意匠出願件数は日本の20倍以上にのぼります。日本との主な違いとして、日本の実用新案同様に方式審査のみで登録することが可能であること、類似意匠として本意匠と似た意匠を10個まで出願可能であることが挙げられます。他にも部分意匠がないこと、存続期間が10年と短いことなどが特徴でしたが、2021年6月施行の法改正で部分意匠が追加され、存続期間は15年に延長されました。部分意匠とは、権利化したい特徴のポイントのみを権利化することです。

日本と中国の意匠制度の違い

出願方法
外国意匠の出願方法には、パリルート出願とハーグルート出願があります。中国はハーグ協定に加盟していないため、中国意匠の出願方法はパリルート出願のみとなります。
パリルート出願では日本語で出願後に各国の言語で出願することになり、現地代理人を経由する必要があります。日本の出願から6ヶ月以内であれば、優先権を主張して日本の出願日を中国の出願日とすることが可能です。

吉川国際特許事務所について

事務所内には多数の中国語翻訳スタッフが在中しております。翻訳者、技術者、チェッカーの三位一体で高品質な翻訳をいたします。中国出願のご活用は弊所にお任せください。

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