資 料
意匠のいろは
このページでは意匠権とその国際出願についてご紹介いたします。
そもそも意匠とは?というところから、意匠の基本的なこと、そして特殊な意匠や改正意匠法まで簡単にご説明いたします。
さらに外国意匠の出願の種類や方法・費用とその支援策についても触れさせていただきます。
1.意匠とは
意匠とは、視覚を通じて美感を起こさせるものを保護します。意匠制度は、物品のデザインを保護することを通じて新しいデザインの創作を奨励し、これによって優れたデザインを持つ製品を増やし、国民生活を豊かにすることを目的としています。
特許や商標、実用新案との比較
車を例にとってみると、意匠は車体のデザインやホイールのデザインなどの権利を保護します。商標はその車の名前や、ブランド・マークなどの権利を保護します。また、例えば車両盗難防止装置のような複雑な技術が用いられている場合は特許が、チャイルドシートの装着のような小発明には実用新案が取得されています。
2.意匠の登録要件
一般的な意味でのデザインが全て意匠の保護の対象になる、というわけではありません。
意匠にはいくつかの条件が存在します。
(1)工業上利用できるものであること
意匠制度は産業の発達を目的に定められている制度なので、工業上利用できることなどが登録の要件とされています。よって、量産できない観葉植物や著作物である絵画や彫刻は保護の対象外となります。
(2)新規性があること
意匠には新規性が必要です。意匠登録されていないからといって、昔からあるようなデザインを出願しても認められません。
(3)容易に創作されたものでないこと
一般的に考えて、すぐに思いつくようなデザインでないことが必要です。
(4)公序良俗に反しないこと
公序良俗に反する意匠は登録できません。このような意匠の登録を認めてしまうと、法の究極の目的である公益の増進が図れないからです。
(5)先に出願・公開された意匠がないこと
先に出願されているデザインと同じものを出願しても認められないのは当たり前ですが、先に「公開」された意匠も認められないことに注意が必要です。近年ではYouTube等にアップロードされた動画に移っている物のデザインが「先に公開されている」と見なされ、登録要件を満たさなくなることも多いです。特許であれば内部の詳しい技術内容が類似かどうかは見ただけではわかりませんが、意匠の場合画像や動画を見れば類似かどうかは一発でわかってしまうため、この条件に気を付ける必要があります。実際に特許庁からの拒絶理由としてYouTubeの動画が挙げられた例があります。
3.意匠登録の流れ
出願
意匠の外観の6面図など出願書類を準備して特許庁へ提出して出願します。
審査
特許庁の審査官による審査が行われ、書類に不備がないかや、登録の要件を充たすか充たさないかなどの判断が下されます。
登録査定・登録料納付
問題なく登録の要件を充たせば特許庁より意匠として認めるとの決定である登録査定がされます。そして、出願人が登録料の納付をすると意匠が登録され、意匠権が発生します。
拒絶理由通知
もし審査の段階で登録要件を満たさなければ、特許庁から拒絶理由通知が届きます。
意見書・補正書の提出
拒絶理由通知が届いた場合、拒絶に理由に対する意見を記した意見書または出願内容の訂正を記した補正書を提出することができます。これによって拒絶理由を解消することができれば、登録査定がされます。
拒絶査定・審判
意見書・補正書の提出で拒絶理由を解消できなかった場合には、拒絶査定がされます。この結果に不服がある場合には、もう一度意匠になるかどうかの判断を求める審判請求をすることができます。審判の結果に不服がある場合、さらに裁判所に訴えることも可能です。
4.意匠の活用―特許や商標の補完―
意匠法は物品の形状や模様、色彩を保護対象としており、物品に施されたデザインを保護するものです。しかし、他にも特許や商標を補完する役割を果たします。
例えば、ペンの持ち手部分について書きやすい形状を開発したとします。この形状について権利を取得する場合、特許出願を行うことが考えられます。しかし、特許出願は登録まで長期間を要し、出願から登録までの費用も高額なため、サイクルが短く短期間で費用を回収するような商品には不向きと言えます。
一方で、意匠出願の場合は特許出願より短期間で安価に取得でき、そのような商品に向いていると言えます。また、早期に権利を取得することで、他社への牽制にもなり、ライセンス交渉を有利に進めることも可能だと思われます。また、意匠権は登録意匠に類似する範囲にまで及ぶため、少しデザインを変えて侵害を避けるというような行為も難しく、特許ほどではないものの強力な権利であると言えます。
では、商標の場合はどうでしょうか。商標法はブランドを保護するものであり、デザインを保護する意匠法とは一見無関係に思えます。しかし、特定のデザインを使用し続けることで、デザインそのものが識別力を獲得することがあります。飲料メーカーが長年にわたって同じ形状の瓶を使用し続けたことで、瓶そのものの形状が立体商標登録された例があります。これは、長年継続して使い続けることによってデザインと人の認識が結び付き、識別力を持つと認められた良い事例だと言えます。
5.特殊な意匠
意匠の中でも特殊な意匠について、一部ご紹介いたします。以下のような特殊な意匠を利用することで、さらに権利保護の幅を広げることができます。
関連意匠
関連意匠とは複数の意匠を1つのチームとして意匠登録することで、これによって本意匠の類似の範囲を明確にできます。意匠権の権利範囲は、登録意匠とそれに類似する意匠ですが、類似という概念は曖昧です。権利者は類似の範囲を広く捉えたくなるものですし、同業者は権利範囲を狭く考えたくなるものです。そこでこの関連意匠を使えば、本意匠と関連意匠との類似部分を通して類似範囲をイメージすることができるようになります。
部分意匠
部分意匠とは製品のデザインの中で特に権利化したい特徴のみを権利化するものです。一般に、記載されている内容が少ない権利ほど、権利として広く強くなると言えます。部分意匠では、違う形状の物体であっても、登録されたものと同一または類似する「部分」が含まれている同一製品である限り、権利範囲を主張することができます。
6.意匠法の改正について
2020年4月に施行された意匠法の改正で大きく変わった五点についてご説明いたします。
(1)保護対象の拡充
新たに保護対象として「物品に記録・表示されていない画像」と「建築物の外観・内装」が規定されました。
「物品に記録・表示されていない画像」とは、クラウド上の画像またはネットワークによって提供される画像や、壁や人体に投影される画像または拡張現実や仮想現実上で表示される画像のことをいいます。具体的には、スマホアプリの操作画面のデザインなどが当てはまります。
「建築物の外観・内装」についても、以前は物品形状等ではないとして保護対象外とされていました。しかし、店舗デザインに趣向を凝らすことで差別化を図る企業が近年見られ、こういったデザイン投資の収縮を防ぐためにも、建築物のデザインも意匠法で保護されることになりました。
(2)関連意匠制度の規定変更
関連意匠制度の規定が変更となりました。以前は関連意匠の出願可能期間が意匠広報発行日まで、つまり約8か月でしたが、本意匠の出願から10年に変更されました。また、関連意匠の類似意匠が本意匠の関連意匠として出願可能となりました。
(3)意匠権の存続期間
意匠権の存続期間の満了日が「設定登録の日から20年」から「意匠登録出願の日から25年」に変更となりました。
(4)意匠登録出願手続きの簡素化
以前までは、一つの意匠出願に一つの意匠しか含めることができませんでしたが、一つの願書で複数の意匠の意匠登録出願が可能となりました。
また、一つの意匠の区切りとして経済産業省が定めていた「物品区分表」を廃止する改正が行われました。これは、近年の急速な技術革新に伴い、多様な新製品が次々と市場に流通するようになり、新製品の登場に物品区分表の改定が追い付けなくなったためです。なお、この廃止により、一つの意匠の区切りの対象が不明確となる恐れがあったため、新たに物品・建築物・画像のそれぞれの基準が定められることになっています。
(5)間接侵害規定の拡充
改正前は侵害品を構成する製品の部品を分割して製造・輸入等する行為を取り締まることができませんでした。そこで、特許法ですでに整備されている規定にならって、間接侵害の対象を拡大する改正が行われました。具体的には、登録意匠に係る物品の製造に用いる物品であって、それが登録意匠の美観の創出に不可欠な物について、その意匠が登録意匠であること及び当該物品がその意匠の実施に用いられることを知りながら商用利用する行為を意匠権侵害としてみなすこととなりました。
7.外国意匠の出願方法
意匠は取得した国のみで有効となり、世界意匠や国際意匠といった名前のものはありません。これを属地主義と言います。ここでは海外で有効な意匠を取る方法についてご説明します。現在、意匠を各国特許庁へ出願するためのルートは大きく分けて二つあります。一つ目はパリルートと呼ばれるルートで、パリ条約による優先権制度を利用し、各国へ直接出願します。二つ目はハーグルートと呼ばれるルートで、一つの出願で複数国に出願するのと同様の効果が得られます。この二つのルートについて詳しくご紹介します。
(1)パリルート出願
パリルートでは最初に日本語で日本の特許庁に出願した後、他に出願したい国の言語に翻訳し、各国の弁理士を通じて各国特許庁に出願します。日本での出願から外国への出願までの時間差による不利益を被らないために「優先権の主張」という制度があります。
この「優先権の主張」は日本での出願から6ヵ月間有効であり、その間にパリ条約加盟国へ出願して優先権を主張すれば、新規性や進歩性を審査される際の基準日を日本で出願した日にできます。また、6ヵ月以内であればいつ出願しても同じ基準日になるため、この間は出願国を慎重に検討することができます。
(2)ハーグルート出願
ハーグルートは特許や実用新案におけるPCTルートや商標のマドプロ出願に似たルートです。最初に日本の特許庁を通して国際事務局へ間接出願をするか、国際事務局へ直接出願をします。PCTルートとは異なり、出願の際に指定国を決定することが必要です。国際事務局へ一度出願をすると、一元的な方式審査を経て出願書類に不備がなければ、全ての締約国への同時出願と同等の効果を得ることができます。この国際登録日から6ヵ月以内に国際公表が行われ、各指定国特許庁が写しを受領し、審査に入ります。問題が無ければそのまま登録となりますが、拒絶理由が発見された場合は国際事務局を通して拒絶が通報され、意見書や補正書を各国代理人経由で各国特許庁へ提出することになります。
拒絶理由がなかった場合は、各国の言語に翻訳したり現地弁理士を探したりする必要がありません。また、ハーグルートはパリルートに比べて権利化が早く、意匠権の管理も国際事務局にて一元管理されているため、存続期間の更新や国際登録の変更が簡便です。 したがって、複数国に意匠登録をしたい場合は現地弁理士費用が節約できるハーグルートが良いでしょう。なお、ハーグ協定の締約国でない国への出願や、拒絶査定が来ることを考慮する場合にはパリルートも有効な選択肢となります。
8.外国意匠の出願費用と支援制度
各国に出願する場合の一般的な費用の目安はこのようになっています。これは各国特許庁の印紙代と弁理士手数料の総額であり、ハーグルートで出願する際には弁理士手数料がかからない一方、国際事務局の手数料が別途発生します。これはあくまで目安であり費用は案件ごとに大きく異なるため、実際に出願を検討される際には弊所の無料見積もりを是非ご活用ください。
海外展開支援策の概要
外国出願の際には補助金を利用することができます。今回紹介させていただく補助金制度は、日本の中小企業が海外市場での販路開拓や円滑な営業展開、また模倣被害への対策を目的とするものです。都道府県中小企業支援センターや日本貿易振興機構のジェトロを通じて、外国出願に要する費用の半分が助成されます。なお、助成されるのは各国への出願費用もしくはハーグ出願費用と代理人費用と翻訳費用で、日本の特許庁に支払う費用や消費税等については助成対象外となっています。
助成金の支援対象・要件
本助成金は中小企業向けの助成金となっているため、中小企業者または中小企業者で構成されているグループが対象となります。中小企業者で構成されているグループは、構成員のうち中小企業者が2/3以上を占めるグループと定義されています。
また要件としては、
・応募時に既に日本の特許庁へ出願済であり、採択後に同内容の出願を優先権主張して年度内に外国出願を行う予定がある
・先行調査などから見て、外国での権利取得の可能性が明らかに否定されていない
・外国で権利取得が成立した場合に当該権利を活用する事業展開を計画していること
・外国出願に必要な資金や計画があること
が挙げられます。
採択された場合には企業名や所在地などが公表され、事業完了後5年間の状況調査も行われます。
支援の詳細と流れ
補助率は1/2、上限額は1企業あたり300万円、1案件あたり意匠の場合60万円で、公募の時期は例年5~7月となっています。
補助金の申請は特許庁への出願後となっているため、まずは日本の特許庁へ出願を行います。その後にジェトロ等へ補助金を申請し、審査に入ります。要件を充たし、助成が決定されると、支援事業の開始となります。支援事業の開始後に外国へ出願し、海外代理人などへの支払いも終えた後に必要書類を補助事業者へ提出してから、補助金額の確定となります。助成されるのは支援決定後に発生した費用で、最後に補助金は交付されるという順序になっています。
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